ナナフシ卵寄生蜂の比較形態および比較行動学的研究
ナナフシの卵に寄生するハチの形態と行動について調べています.日本でも高い擬態能力で有名なナナフシの卵は,実に様々な形をしていてまるで芸術作品のようです.近年,このナナフシ卵の分散に,アリや鳥といった他の生物が関与していることが研究で分かってきていて,ナナフシとその卵という変わったハビタットの存在が明らかになりました.しかし,それらは現代の生物多様性のブラックボックス,我々が覗いているのはその一端でしかありません.ナナフシ卵の利用者について更なる解明を進めるため,ナナフシの卵に寄生するというこれまた変わったハチに注目しました.

右の写真の蜂,カブトバチ亜科は,ナナフシ卵に寄生するハチだと言われています. 不思議なことに,セイボウ科にはナナフシヤドリバチ亜科というナナフシ卵に寄生する別の一群が知られており,カブトバチとは系統的に近しいものだと言われていますがその形はお互いに似て非なります.これだけ違った見た目をしているからには,それぞれが寄主となるナナフシ卵の形態や,産卵方法などが違っていて,ハチの方がそれらに合わせて形を変えてきた可能性が考えられます.しかしながら,このナナフシ卵とその寄生蜂の関係については寄生蜂がかなり稀少で得ることが難しかったため研究がまったく進んでいません.異なる形態をもつナナフシ卵寄生蜂のカブトバチ亜科とナナフシヤドリバチ亜科について飼育・観察によってその行動を調べ,それぞれの形態のもつ意義を明らかにすることで,ナナフシ卵の利用者がどのように今の形態,行動をとるに至ったかについての一つの答えを知ることができるのではないでしょうか.
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好蟻性ハチ類の分類と生活史の研究

アリと関わりをもつハチ達の分類学的研究とその習性について調べています.好蟻性ハチ類は変わった行動をもつものが多く,形態・行動の進化やアリとの関係は一般の寄生蜂と異なった面白さがあります.しかし,これらはなかなか採集されず,生態的知見が蓄積されていないため生活史の多くが謎に包まれています.また,得られている個体が少ないことから分類学的な検討があまり進んでおらず,多くの未記載種(新種)が存在します.これら好蟻性ハチ類を採集し分類学的問題を解決しつつ,野外や研究室下で行動を観察して生活史の解明を目指しています.
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全国のアリ相調査

アリの研究は多岐にわたりますが,純粋な相調査という点については他の昆虫に劣るようです.好きこそ物の上手なれで周りから咎められながらも知識をつけてしまった(?)アリについて,それを腐らせておくのはもったいないと考えます.ときには自ら採集へ赴き,ときには全国各地の愛好家と連携を取り,採集調査や依頼された同定の結果を報告することで,より解像度の高いアリ相を未来へ提供しようと思っています.
福岡県の昆虫相調査

現在私の住む福岡県は,自身の出身地であるだけでなく,いつの時代も昆虫研究の先端をゆく九州大学があることから学生・教員が採集を行い,それぞれの専門家が同定した信頼できる数多の昆虫の記録が蓄積された土地です.特に出身の大野城市について,小さな記録でもコツコツと溜めていくことを目標に分類群をなるべく絞らず公表していくつもりです.地域ファウナ解明のため,採集した個体は専門家へ積極的に送付してコレクションの充実を図り,信頼のできる同定を心がけています.
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