アリの標本作成法

好蟻性ハチ類の研究に欠かせないもの,それは寄主(ホスト)となるアリです.寄主のアリの情報をきちんと残しておくことは寄生者のハチの生き様を知る上で非常に重要ですが,そのためにはハチだけでなくアリもより良い方法で標本を残しておく必要があります.

アリの標本作成についてはこれまでに出版された様々な書籍に掲載されていますが,この令和の時代.調べものには書籍よりもまずインターネットという人の方が多いかもしれません.しかし,アリの標本作成についてWeb上で解説したサイトは驚くほど少なく,日本語となるとほぼ皆無です(私の知る限り1つだけ).「アリ 標本 作り方」とかで検索しても全然ヒットしません.結果,恐らく我流でなされたであろう酷いマウント(乾燥標本の作製)のアリを見ることは日常茶飯事ですし,じゃあどこにやり方が載ってるんだ!と怒りの声を私もよく耳にしますが,Web上では適切な答えを提示できないのが現状です.

ここでは,私が行っているアリの標本作成方法を紹介することでアリの標本作成について基本的な知識と手法を身に付け,大事故を防ぐことができればと思っています.ここに書いてある方法を参考にして怒られたら,お問合せページから文句を言ってください(笑).より良い方法を模索します.

必要なもの
・ピンセット
・木工用ボンド
・厚紙(ケント紙が好ましい,ハガキでも可)
・はさみ
・実体顕微鏡(なるべく使いたい)
・ティッシュ(繊維が絡まるのが気になるならろ紙などでも可)
・平均台(市販のものが好ましい)
・昆虫針(志賀昆虫針以上のものが好ましい)

1.保管しているアルコールからアリを出し,ティッシュに置いて5分ほど乾燥させます.飼育していて死んでしまった個体や,タトウ上で管理していた個体は数分~10分ほどアルコールで洗浄して,同様に乾燥させます.

アリを保管するアルコール入りチューブ.ハチと同じように冷凍庫に保管しましょう.

たくさん個体があるときは乾燥しすぎないよう気を付けながら待ちます.

2.厚紙を鋭角の二等辺三角形に切ります(できたものを三角台紙といいます).アリの大きさに合わせて,様々な幅の三角台紙を用意するといいと思います.

台紙用の厚紙.基本的にはラベルに使用するものと同じでいいと思います.

三角台紙は専用のパンチでも作れますが,ハサミで切ると大きさと先端の幅を自由に調節できます.

切った三角台紙はまとめてケースに入れて保管しておくと次の標本作成のときすぐ使えます.

様々な幅の三角台紙

3.ボンドを三角台紙に着け,素早く虫体につけます.このとき,虫体が図のように左に三角台紙の底辺がくるような方向で,中脚・後脚の基節に着けます(赤丸).素早く着けるために虫体の腹側を上にすると貼り付け作業がはかどります.

4.三角台紙に昆虫針を刺し,平均台の最も上の穴に刺して位置を調節します(平均台が手元に無い方は,虫体が触れないようにして発泡スチロールなどに刺して位置を整えましょう).

アリの標本は下方向に脚が伸びるので,平均台の端を削って台紙の高さを整える際に脚が折れたりしないようにしています.

5.マウントはこれで完了です.同じ巣から得られた個体がいる場合は,針と虫のスペースと相談して3頭ほどなら同じ針に刺せます.マウントした個体を標本とするならデータラベルを付しましょう.本来ならコロニー番号を振るべきですが,私は不精してしまいます.マウント後すぐは簡単な情報だけ書いた仮ラベルで構いませんが,後でしっかりとしたデータラベルを付けるのを忘れずに.

※データラベルの印刷はできるだけ顔料インクを使ったインクジェットプリンターで行います.なぜかと言うとレーザープリンターでは表面にインクを吹きつけるだけなので,謎の勢力によってピンセット等でラベルの表面を擦られたときに文字が消えてしまうためです(と虫を始めたときにえらい人から言われました).また,私のラベルがサンセリフで印字されているのはセリフだとインクジェットプリンターでかなり薄く印刷されてしまうためです.

6.脚がうまく整えられていない場合は,半日~一日後に整形します.

整形前の標本.特に後脚が中体節の後方に被っていて前伸腹節刺がよく見えません.

整形後の標本.これで中体節がはっきり見えました.

再整形の方法1) アルコールを表面張力でピンセットに含ませ,2-3) 任意の部分に優しく触れる.クロオオアリのようによほど大型でない限り3~5分ほど経つとアルコールを浸けた部分が動くようになるので,4) 乾く前に整形します.このとき着けているボンドにアルコールが届くと接着が甘くなるので,そうなってしまったら思い切って全身をアルコールに浸けて新たにボンドでくっつけましょう.

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