好蟻性ハチ類の採集・保管

好蟻性ハチ類の採りかた

好蟻性ハチ類に詳しい生態が不明な種が多いことはここに述べましたが,これまで知られている採集方法は限られています.しかし全てが全くの偶然ではありません.それぞれのハチに適した採集方法があり,その種について知ることでより効率的に集めることは可能です.ここでは,過去の文献と私の浅い経験から好蟻性ハチ類の集め方についてご紹介したいと思います.以下はほんの一例であり,ひょんなことからたくさん集められ,そのハチの生活史の解明に繋がることがあります.また,ハチの生活史が明らかになれば自ずとより良い収集方法が見つかるはずです.いろいろな方法を試してみるときっと面白いと思います.もし,もっと効率的な集め方があるよ!とお気づきの方がいらっしゃれば是非ご教示ください.

ホストのアリの巣や行列のまわりを探す

最も効率的で確実な採集方法です.ホストとして判明している種もしくは疑われている種の巣の中,行列中,行列付近を観察し,見つけ採りします.好蟻性のハチ類はそれほど動きが早くないので,吸虫管か手持ちの小さなネットで捕まえると良いでしょう.最も信頼できるホストのアリとの関連付けができ,新たなホストの発見だけでなく,これまで知られていなかった思わぬ行動が観察されることもあります.

いくつも石が転がった河原.赤で囲んだ石の下にはケアリの巣があり,多数のアリヤドリバチが飛来していた.

クサアリの行列のすぐ隣で休憩するアラカワアリヤドリバチのメス.

スウィ―ピング

スウィーピングも有効な採集方法の一つです.好蟻性ハチ類のメスはホストのアリを探して飛び回りますし,オスはそのメスを求めて林内や林縁をより広範に飛び回ります.ホストのアリの巣のまわりや,ハチのいそうな林縁の下草をスウィープすることでヒメバチ科コマユバチ科など多数の好蟻性ハチ類を採集可能です.特にアリヤドリコバチ科はアリのよく集まる草本に産卵をおこなうので,スウィーピングで採集されることも多いです.

里山の林縁をスウィープするとケアリと共にケブカアリヤドリバチが得られた.

ブナ・ミズナラ林の下草を掬うとGollumiella属のアリヤドリコバチとMyiocephalus属のコマユバチが得られた.

マレーゼトラップ

マレーゼトラップは様々な昆虫を採集することのできる方法ですが,好蟻性ハチ類も例外ではなくヒメバチ科コマユバチ科ハエヤドリクロバチ科アリヤドリコバチ科など採集することができます.特にホストの巣の近くにトラップを設置すると,数十頭を超える個体を得ることができます.

低山地にかけられたマレーゼトラップ.ここではアリヤドリバチ類が3種得られた.

イエローパントラップ

イエローパントラップは黄色い皿を用いてそれに誘引される昆虫を採集するトラップですが,好蟻性ハチ類もある程度は集めることができます.好蟻性ハチ類では特にアリヤドリコバチ科コマユバチ科ハエヤドリクロバチ科を集めるのに有効です.しかしながらマレーゼトラップと比べると他のハチよりも採集効率は落ちるので,マレーゼトラップをかける余裕がないときや狙いたい種がいるときに用いると成果が出やすいと思います.

イエローパントラップを林縁にかけたところ.矢印の先が黄色水盤.

シフティング

シフティングは篩とバットを使って土中やリター層の生きものを探す方法です.好蟻性ハチ類にはアリの巣を目指して土の中や落ち葉の下を歩いている個体やアリの行列に随伴するハチがいるため,主にハエヤドリクロバチ科アリガタバチ科がこの方法で採集されます.しかし,単にそこを生活圏としているだけの種も多く,好蟻性であるかの判断は慎重におこなうべきでしょう.

シフティングしている様子.じっと目を凝らしていないと小型のハチたちを見逃してしまう.

トビイロシワアリの巣を篩いにかけて得られたハエヤドリクロバチの一種.好蟻性で知られる顕著な属であるため好蟻性と判断された.

花掬い

花掬いは甲虫やハエ,カメムシなどを採集する方法として有名ですが,好蟻性ハチ類では主にアリヤドリコバチ科が花にやってくることが知られており,花掬いによる採集も報告されています.他に花好きなハチも採れるため,大きくて魅力的なハチに目を奪われて小型の好蟻性ハチ類を見逃さないように注意しましょう.

エサキアリヤドリコバチは花掬いで得られる好蟻性ハチ類の筆頭で,意図せずして甲虫や有剣類などの愛好家によって採集されることも多い.

好蟻性ハチ類の採集道具

アリの巣内や周りにいる好蟻性ハチ類は一般的な捕虫網では捕まえにくいもの.そんなときは吸虫管を使うと効率的に採集できます.
市販の吸虫管は吸った虫をキープしておく空間がありますが,好蟻性ハチ類の採集では不要です.以下に私が使っている吸って吐くだけの吸虫管を紹介します.この形の吸虫管はいろんな虫を採集して毒瓶に入れたり生きたままケースに入れたり液浸に入れたりと仕分けが便利です.

好蟻性ハチ類の保管方法

好蟻性とはいってもハチはハチなので,保管の方法は他のハチと区別する必要はありません.昨今は,ハチの液浸標本保管方法や乾燥標本作成方法についての報告やWeb上の解説が増えているので,詳しいことはそちらの記事などをご参考ください...

しかし!これだけ有用な記事がありながら,採ったハチがタトウ上で甲虫と一緒にもみくちゃになる,三角紙にすし詰めになって触角や脚がボキボキ折れる,正中線上や小盾板に針を刺す,同定を目的にしているのに展翅展脚してしまう,といった悲劇が後を絶ちません.以下に私が普段おこなっている例を示すので,参考記事の載った雑誌を手にしたり別サイトに飛ぶのが億劫な方はどうかこれだけでも覚えていただければ幸いです.

1.採集したハチは80%程度のエタノール(市販のもので可,DNAを取りたいならば無水エタノール)に入れて殺虫するか,酢酸エチルの充満した毒瓶に入れ殺虫します.このとき,動きを鈍らせるためにスポーツ用品のコールドスプレーを使用してもいいと思います.

2.殺虫後はエタノールで殺虫した場合はそのままでもいいですが,虫をエタノールに入れる際にゴミが付着したり殺虫時に虫が体内の物質を吐き出すことがあるので保管用の綺麗なエタノールへ移し替えると虫も綺麗です.酢酸エチルで殺虫した場合は上記の濃度のエタノールに移し替えるか,もしくは丁寧に三角紙に過密にならないよう入れます. 液浸の場合は仮ラベルでもいいので採集地・採集日・採集者を記したラベルを一枚入れます.三角紙の場合はどこかに消えないように液浸と同様にラベル情報を書き記しましょう.

3.そのまま液浸標本の場合は詳細なデータラベルを一瓶に一つ入れる(人によっては個体数分を刷ってチャック付き袋にまとめて入れる).他人へ標本を送付する際は,できるだけ仮ラベルではなく詳細なラベルを付すことを心がけましょう. 液浸のまま手元にしばらく保管する場合は変色や劣化を遅らせるためなるべく常温は避け冷凍庫に保管する.DNA分析に使う液浸標本はなるべく超低温フリーザーに保管したいです.難しければ分析をおこなう人物へすぐ送るか,設備を利用させてもらいましょう.

4.乾燥標本にするならエタノールから出してある程度乾燥させた後,大きさに応じて針を刺すor針にボンドを着けてそれに貼るor三角紙にボンドを着けて貼ります.このとき同定に有用な部位が隠れないよう心がけ,ボンドの着けすぎor着けなさすぎに注意します.針は正中線を避けて中胸の右側へ挿し,脚は中体節側面が見えるよう下げますが,腿節と脛節を間節で曲げてラベルにぶつからないようにしましょう.高さは平均台を用いてできるだけそろえ.一頭もしくは一針につき一データラベルを付けます.このとき,一緒に採れたアリも同じ針に刺しておくと関係が分かりやすいです.アリの標本作成についてはこのページを参照ください.

5.乾燥後はインロー箱やドイツ箱に入れましょう.分類群ごとに分けたり,ユニットボックスで管理すると整理が楽です.腐らないよう乾燥剤を入れたケースに保管し,虫害を防ぐためにも防虫剤を入れましょう(乾燥効果も持つものが多いので場合によっては防虫剤のみでも可).三角紙に入れた場合も乾燥標本と同じく湿気と虫害に注意して密閉した容器に保管してください